汗ばむ夜と、はしゃいだ都会

公共の場などでエイチな画像を消したい時⇒

「 藤原ちゃん今日も眠そうやな(笑」

僕の前の席に後ろを向いてまたがってくるなり、柊さんはそう言った。

まだあどけなさが残る20代最初の歳とはいえ、とても大人びて見える「先輩」と言う存在として、柊先輩は美しくそこに君臨していた。

彼女は美しい人だった。 可愛い、というよりも綺麗だ、と言ったほうが正しい。

凛とした清楚な佇まいと人懐っこい親近感が同居した、微妙な、それでいて危うさも感じさせる人だった。

そしてなかなかの毒舌家だった。

「柊先輩こそ来るの遅いやないですか、もう午前の授業終わりますよ?」

僕がそう言うと先輩はフフンと鼻で笑い、「そこは心配いらんからなぁ・・・・」と返す。

「そんなことより、今日はゼミの飲み会やろ? 場所どこか知ってる?」

ニコニコしながらそう訪ねてくるので僕はスマホを見せながら店の説明をし始めた。 が、

「あ~・・・・覚えるのええわ。 連れて行って。 ・・・ええやろ?」そう言って僕の頭をポンポンと叩く。

「ああ、まあ・・・・・いいですけど・・・・・」照れ隠しに少し俯きながら、僕はしどろもどろにそう答えた。

夏の日差しは強く、講堂の上の席にいるとじんわりと汗ばむほどだ。

暑い日は嫌いではない。

女の子が薄着になるから、と言うだけでなく、なにか活動的な感じに動けるのが好きだ。

「こう暑いと汗ばっかりで嫌になるね・・・・・」そんな事を言う。

柊先輩に連れられるようについていくと、汗に濡れた彼女の真っ白なシャツが眼に入る。 汗ばんだ肌に張り付いた真っ白なシャツ。 薄っすらと透けて見える彼女らしいこれも真っ白なアンダーウェア。

強気な彼女が見せた弱みとも言える気の緩んだスキに、彼女の愛らしさが滲んで取れる。

愛らしい

そう感じる。

そう感じさせるほど彼女は安心しきっているのだろうか。

自身の男としての威厳が、若干ながら揺らぐのを感じて僕は小さくため息を付いた。


「・・・・なによぉ・・・ビールばっかり飲んでぇ。」

相変わらず絡んでくる柊先輩に、若干辟易しながらも僕は先輩方のおかわりの注文に忙しく動き回っていた。

「先輩は・・・・もう空いたんですか?? 次もカシスオレンジです?」

とろんとし始めた眼でこちらを向くと、先輩は人懐っこく笑って首をふり言う。

「ん~~ん。 私もビール・・・・・じゃあシャンディーガフにしようー!」

僕のジョッキを手に取ると、高々と頭上に掲げ一息に煽る。

「あ~~あ~・・・・あ~・・・俺の酒ですよ。 もう~~・・・・」

先輩の手からジョッキを取り上げながら言うと、不満そうに口をとがらせ、先輩はそっぽを向く。

すると幹事でもある石破先輩がこっちを向いて呼びかけてくる。「3次会はいつも通りビリヤード行くけど、柊は来れる? いける~~??」

途端に柊先輩はむっと石破先輩を睨んで口を開く。 「行かれん訳でもあると思うん?!」

石破先輩は手のひらでシッシとしながら「藤原、自分ちゃんと連れてきてや~? 行かれんかったら送ってくれたらええし。」と言うと、会計を済ませに立っていった。

「大丈夫かいな・・・・・・」ひとりごちると僕は先輩の背中をたたき「いきますよー? 行けるんですねー?」と声をかける。

先輩は突っ伏したまま、サムアップのグーパンチで応えてきた。


いつものビリヤード場はそれでも少し涼しかった。

汗ばんだ肌に、エアコンの冷風が心地よい。

「じゃあそろそろペア交代しよか~~!」

石破先輩が声掛けをする。 と、とたんに柊先輩がこっちに向かってダッシュしてくる。

「もーー!!なんで全然声かけてくれへんのよ!!」

先輩は怒り心頭に発したという感じで猛烈に詰め寄ってくる。

「ペアりたかったのに、どんどんみんなに捕まってさ・・・・あーもうっっ!!!」そう言うやいなや、強烈なグーパンチをみぞおちに御見舞される。

ハハハ・・・・・なんか、可愛いやん・・・・そんな風に思いながら先輩とボールをセットして突き始める。

「・・・・藤原くん相変わらずビリヤードうんまいなあ・・・・・・」

どことなくしゅんとしながら、そんな風に先輩はつぶやく。 だがそういう先輩も相当な腕なのだ。

「そんな事言うても、先輩も

そう声をかけた刹那、隣にいた先輩の胸元に気づく。

よほど暑かったのだろう、酔っていたこともあるだろう、先輩は着ていたブラウスの胸元を少々開きすぎているのに少しも気が向いていない。

汗に濡れた感じがよほど気持ち悪かったのか、酔ったからなのか、柊先輩はいつの間にかアンダーウェアを外してしまっている。

真っ白なブラウスから溢れる酔って赤く染まった胸元。 白い肌に仄かに盛り上げられた愛おしいふくらみ。

それはとても儚い物のように見えた。 隠された秘密を、強引に暴かれたときのように。

強気が勝ちすぎる先輩の見せる、あまりに幼い失態。

先程前の店では肌に張り付いていた白いブラウスはすっかり汗も引いたようで、今ではエアコンの小さな風にも棚引いている。

とっさに目をそらしはしたが、その唐突な光景は鮮烈に脳裏に焼き付いて離れない。

先輩にそれとなく知らせるべきか・・・・・とも思うが、うまく言葉で表現できる自信がない。 その程度には僕も酔っているのだ。

が。

その先輩の姿に気づいている男が何人か居たようで、一人の先輩がこちらを顎で示して他の男達に合図している。

・・・・・・・・・・・・っっ!

僕はとっさに先輩の手を引き背伸びさせると、急いで着ていたサマーウールを脱いで先輩に手渡した。

突然手渡された上着にキョトンとした表情をしながら首を傾げる先輩。

僕が自分の首元を引っ張って先輩の方をツンツンと指差すと、ようやく先輩は事態を把握したようで、うわわ・・・・と小さく声を上げ急ぎセーターを被る。

「・・・・っ・・・よ~~・・・・藤原よ~・・・・」 一人の先輩が不機嫌そうに言いながら僕に詰め寄ってきたが、途端に柊さんがその男先輩の頬を張る。

- バッシッッ -

唐突に大きな音が響き渡り、事態が分かっていない全員が驚いてこちらを見る。

「藤原っっ! 行こっっ!」

先輩はビリヤードキューを置き、千円札数枚をテーブルに叩きつけると、僕の手を引き店を後にする。

「ひいらg

誰かが後ろで大声で叫ぶが、全く気にする素振りもなしに、先輩は乱暴にドアを開け、僕を外に連れ出した。


エレベータホールで待っていると、「もう内階段で降りよ!」そう乱暴に言うと、未だ怒りが収まらないと言った風に先輩は僕の手をつかんで引っ張っていく。

内階段へのドアを開けると纏わり付くような熱気がむっと僕らに押し寄せてくる。

階段の踊り場に出ると先輩は急に振り返り僕の方を見て頭を下げる。

「あ!ありがとう! あの・・・・・庇ってくれてさ・・・・その」

「いいんです!!」

自分でも思わず大きな声が出る。

ビクッとなったように先輩は驚いた顔で僕を見上げる。 「え」

「・・・・・先輩の・・・・・その・・・・胸を他の男が見るとか。 そんなん無理なんで。」

吐き捨てるように僕が言うと、先輩は何かを食い入る様に僕の顔を見つめ続ける。

自分が怒っていることに気づき少し自分でも驚きはしたが、それでもやっぱり・・・・・・いやなのだ。 先輩の身体を耳目に晒すのは。

すると先輩は僕のシャツの裾をツンツンと引っ張りながら

「じゃあやっぱり・・・・・・自分も見たんやね・・・? 私のさ

僕は突然の追求に顔が真っ赤になるのを感じながら、それでも上手く返答することが出来ずにもごもごと

「自分になら・・・・見られてもええけど・・・・」

俯いたまま、先輩は突然そんな事を言う。

驚いて先輩を見ると、先輩はなにか決心したような表情を見せ、強い瞳で僕を見て言った。

「庇ってくれてありがとう。 ・・・・・私はさ・・・・今日は酔ってるから・・・・・」

そんな風に。

そして僕の口唇に先輩の白い指がそっと触れる。

「夏の暑さで・・・・・酔ってるから・・・・・きっとそう・・・・・・・」

僕の口唇を見つめながら・・・・・・・

そうしてそっと目を閉じる


夏の暑さがよみがえらせる

あの日の君と

--- period. ---

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